大判例

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山口地方裁判所 昭和26年(行)27号 判決

原告 柳虎一

被告 山口県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十六年三月六日訴外猪原アサ子に対してなした防府市東佐波令千四百二十三番地公衆浴場「月の湯」の営業許可処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書住所地において大正六年から公衆浴場「柳湯」を営んでいる者であるが、被告は昭和二十六年三月六日訴外猪原アサ子に対し原告住所地から約百八十米距つた防府市佐波令千四百二十三番地公衆浴場「月の湯」の営業許可を与えた。しかしながら右許可は昭和二十五年山口県条例第四十三号公衆浴場適正基準条例(以下県条例という)第二条に該当せず、又同第三条二号所定の利用者は九百五十人で、所定の浴場数(原告「柳湯」と「月の湯」)二で除すると四百七十五名にすぎないから、同条所定の六百五十人に満たないこととなつて、右許可処分は同条例を無視してなされた違法があるから取り消さるべきものであるよつて本訴に及んだと述べ、

被告の本案前の抗弁を否認し行政事件訴訟特例法第一条に照しても、その処分の違法を争うについて法律上利益を有する者に限るとの制限はないから取り消しを求め得ると述べ、被告の答弁を否認し、右答弁(二)に対し県条例にいわゆる利用者とは自家用の浴場施設を持たない人をいうのであつて所謂流動人口はこれに該当しない(県当局は同条例公布の際かように確答した)又被告の新設浴場を中心とする半径三百米の円区域の範囲は実測と合致せず、且つそれによればその区域内に伝染病院が存し、これは昭和二十五年山口県条例第二十号公衆浴場について衛生及び風紀に必要な措置の基準に関する条例第一条第二項に違反している。右答弁(三)に対し県条例第三条三号は温泉地その他の場合で本件には該当しない。警察予備隊は昭和二十六年十月頃一時的に防府市に駐留したのみであり、鐘紡その他従業員の流動人口の増加必至の事情があつたとしてもこれら流動人口の激増に基いて許可を与えるべきものではない。右答弁(四)に対し原告の浴場は昭和二十六年三月頃迄に改善改良され、防府保健所も推称している程であつて決して非衛生的なものではない、右答弁(五)に対し新公衆浴場法は公衆浴場の設置場所の配置の適正と経営の健全化を目的としたもので、その配置基準を都道府県の条例に委せているが、右法の目的を考慮して運用すべきであつて、その目的を逸脱することは違法であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として、行政処分の取消の訴を提起し得る者はその処分の違法を主張するにつき法律上の利益を有する者に限るのであつて、本件被告の許可処分により原告の権利を害したものとはいえないからその取消を求めることはできない。又被告の許可行為は行政処分ではないからこれらに対し取消を求めることもできないと述べ、

次に本案について、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告が大正六年から原告主張の場所で公衆浴場「柳湯」を営んでいる事実、被告が訴外猪原アサ子に対し、原告主張の場所に公衆浴場「月の湯」の営業許可を与えた事実(但し右許可の日時は昭和二十五年十月十四日である)は認めるが、その余の事実は否認する。(一)原告の経営する柳湯附近は人口密集し利用者が多く且同湯と他の既設公衆浴場との関係は、柳湯を中心として、約五百米乃至六百米以上の距離にあり収容能力が不充分の状況にあつたところ更に当時警察予備隊教習所が防府市に設置せられ、約三千名の隊員が駐留したが、隊員宿舎には浴場設備がなかつたため隊員は一般公衆浴場に入浴し、そのため混雑を生じていた状態であつたので、「柳湯」と約百八十米の距離に「月の湯」の営業許可を与えたのである。これは県条例第二条には適合しないが、他の公衆浴場及び人口、土地の状況、敷地所有権等の関係から勘案して現位置に新設を許可したものである。(二)県条例第三条二号に違反した違法はない。同条の利用者とは自家浴場を持たない者のほか、自家浴場を有していても公衆浴場を利用する者及び夜間勤務者等所謂流動人口をも包含するものであつて「月の湯」を中心とする半径三百米の円区域内の利用者数は自家浴場を有しない者千三百十人、自家浴場を有していても尚公衆浴場を利用する者百六人、流動人口七十人計千四百八十六人で、右円区域内には原告経営の浴場があるから浴場数二で除すると七百四十三人となり六百五十人以上である。仮りに右第三条二号の利用者数が法定数に足らないとしても、(三)当時防府市に警察予備隊員約三千名が駐留していたが、この隊員宿舎には浴場設備がなかつたので隊員はすべて一般公衆浴場に入浴したため、防府市民、予備隊員の不便は甚だしいものがあり、且鐘紡防府工場も拡張の気運にあり、流動人口増加必至の状況という特殊の事情にあつた。(四)原告経営の柳湯は大正六年設置されたもので、公衆衛生上改善の必要があるが「月の湯」は鉄筋コンクリート構造で衛生的施設の充実、防火の安全性等の点からみて模範的な浴場である。被告の本件許可は右の諸点を勘案し県条例第三条、二、三、五号に適合するものとして与えたもので何等違法な点はない。(五)仮りに本件許可行為が右規定に違反しているとしても右県条例は申請の基準を示したもので、処分庁たる県知事の権限を制限したものではないから何等違法の点はないのであつて、結局原告は本訴において権利保護を求める利益がない、尚「月の湯」を中心とする半径三百米の円区域内に伝染病院が存することは知らない。仮りに存したとしても昭和二十五年四月山口県条例第二〇号第一条二号但書に該当すると述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が訴外猪原アサ子に対し、防府市東佐波令千四百二十三番地公衆浴場「月の湯」の営業許可を与えたこと及び原告が大正六年から右「月の湯」から約百八十米距つた原告肩書住所地で公衆浴場「柳湯」を営んでいることは当事者間に争いはない。

よつて被告の本案前の抗弁について判断するに、公衆浴場法及びその委任県条例においては公衆浴場につき行政庁に営業の許可取消中止の処分を行わせること、都道府県知事又は市長に営業者等から報告を求めさせること、環境衛生監視員に検査をさせること、公衆浴場設置の場所、構造設備及び配置を適正にすること等種々の規定を設けているが、これら規定を彼此検討すれば右法令制定の目的が主として公衆衛生の維持、向上をはかるにあつて既設公衆浴場についての営業権の保護を目的とするものではないことが明かである。従つてなるほど既設公衆浴場の経営者は、右の如き法律の規制のため競争業者の濫立によつて蒙る不利益を免れる結果となるけれども、これは既設業者が右法令により何等かの権利を取得しているがためではなく、唯右法令による公衆衛生の維持、向上なる目的遂行上反射的に利益を受けているにすぎないと解するを妥当とする。而して本件の如き所謂抗告訴訟は行政庁の処分により権利を毀損せられたとしてその救済を求めるものであるから、権利保護の利益即ち権利の毀損がない限り訴を提起し得ないものである。が原告は本件許可処分により何等権利を毀損せられたものではなく、単に法規の反射的利益を害せられたにすぎないのであるから本件許可処分の取り消しを求める法律上の利益を有しない。よつて爾余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の点について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 御園生忠男 黒川四海 大前邦道)

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